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福岡高等裁判所 昭和53年(ネ)13号 判決 1978年7月03日

控訴人 原田虎愛

被控訴人 国

訴訟代理人 草野幸信 藤村勝義

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金一万円を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、控訴人において、「控訴人は先に本件と同一の事実関係を主張して訴外株式会社三和銀行に対して損害賠償請求訴訟を提起したが、第一審、控訴審、上告審とも敗訴した。三和銀行の不法行為は明らかであるにもかかわらず控訴人の請求がいれられなかつたから、本訴においては同銀行に営業の免許を与えた大蔵大臣の責任を追求するものである。」と述べたほかは原判決の事実摘示と同一(但し、原判決八枚目裏六行目末尾に「(<証拠省略>)」を加える。)であるから、これを引用する。

理由

一  控訴人の主張は、要するに、三和銀行は、本件約束手形について取引なしとして不渡処分をするべきであるにもかかわらず店頭現金決済をしたばかりか、取引停止処分後及び偽造手形であることを知つた後にも、右同様の決済をした。右行為は、手形交換所規則、三和銀行定款、同銀行の規則に違反し銀行法二三条に該当する。また協和銀行、筑邦銀行は、本件手形の提出人である有限会社コオノ広告会社について取引停止処分がなされたことを知りながら、条理または信義則上の告知義務に違反してこれを控訴人に告知しなかつた。このような右三銀行の違法な行為によつて小畑博が振出したコオノ広告社名義の約束手形及び小畑博に信用が与えられた結果、控訴人は弁済を受け得るものと信じて小畑博に一七一万九、〇〇〇円を融資したのであるが、同人は無資力で右貸付金の回収をすることができなかつたため、同額の損害をこうむつた。大蔵大臣は、銀行業務の適正をはかるために必要な監督をするべき義務があるのに、右三銀行に対する業務の状況の検査等の監督を怠つたため、これらの違法行為を未然に防止することができず、その結果控訴人が前記損害をこうむつたのであるから、国家賠償法第一条により右損害のうち金一万円の賠償を求めるというのである。

二  国家賠償法の適用に関し、公務員の不作為が、同法第一条の違法行為として国が賠償責任を負うためには、当該公務員に法律上の作為義務があることを要求するものであるところ、銀行法には、大蔵大臣は銀行に対し業務に関する報告をさせ、監査書その他の書類帳簿を提出させ、金融検査官をして銀行の業務及び財産の状況を検査さえることができる旨(同法第二〇、第二一条)規定させ、さらに銀行が法令、定款、大蔵大臣の命令に違反しまたは公益を害する行為をしたときは業務停止もしくは取締役、監査役の改任を命じ、または営業の免許を取り消すことができる旨(同法第二三条)規定されている。しかし、これらの権限は、金融機関の強度の公共性にかんがみ、その業務の適正並びに資産内容の堅実を期するために、金融機関に対する行政庁の監督として定められたものであつて、大蔵大臣がこれら銀行法上の規定に基く行政監督権を、いかなる場合、どのような限度において行使するかは、当該違法行為の態様、程度やその是正の必要の度合等を総合して政策的見地から慎重かつ合理的に判断してなさるべき事柄であつて、それは大蔵大臣の自由裁量に属するものであり、その行政監督権の行使は、法律上義務づけられた法律的義務ではなく、その権限行使の適否についての責任は、あくまでも政治的、行政的責任にすぎない。また、大蔵大臣の右権限行使によつて国民が利益を受けるとしても、その利益は、単なる反射的利益にすぎないものであつて、大蔵大臣は、前記銀行法上の規定により、特定の個人の利益保護のため特定の個人に対してその権限を行使すべき義務を負うものではない。そうすると、三和銀行ほか二銀行に控訴人主張のような行為があつたとしても<証拠省略>によれば、控訴人の本件と請求の基礎を同じくする三和銀行に対する損害賠償請求事件について、三和銀行の過失が否定されて控訴人の請求が棄却され、三和銀行には本件に関して控訴人に対する損害賠償義務はないことが確定していることが認められ、この事実は控訴人も自認するところである。)、大蔵大臣に右権限を行使すべき法律上の作為義務がないものである以上、同大臣が同権限を行使しなかつたことをもつて同大臣に違法行為があつたとすることはできず、したがつて、同大臣が前記権限を行使しなかつたことが違法であることを前提とする控訴人の本件国家賠償の請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当であるから、これを棄却すべきである。

三  そうすると、控訴人の本件請求を棄却した原判決は結論において相当であつて控訴人の本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 原政俊 大城光代 寒竹剛)

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